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岡山地方裁判所 昭和42年(行ク)3号 決定

申立人

備南土地株式会社

代理人

楠朝男

被申立人

広島国税局長

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

第一、申立人は、「被申立人が申立人に対する滞納国税徴収のため、別紙目録(一)記載の各土地について差押え、同目録(二)記載の各賃料債権について差押え取立て、同目録(三)記載の各供託金の還付請求権について差押えたる各滞納処分手続の続行は、申立人を原告、申立外児島税務署長を被告とする岡山地方裁判所昭和四二年(行ウ)第八号法人税更正処分等取消請求事件の判決確定にいたるまでこれを停止する。」との裁判を求め、〈以下略〉

第三、当裁判所の判断

一、本件滞納処分の執行停止を認めるためには、まず、処分の取消の訴が適法に提起されていることを要する。ところで〈疎明資料〉に疎明の全趣旨を総合すれば、申立人は、申立外児島税務署長がなした申立人主張どおりの法人税の更正処分や源泉所得税の納税告知について課税所得の認定に誤りがあるとし、所定の異議申立および審査請求の諸手続を経た後出訴期間内に当庁に対し右各処分の取消を求めるべく訴を提起し、目下当庁昭和四二年(行ウ)第八号法人税更正処分等取消請求事件として係属審理中であることが疎明されるが、右疎明事実に徴すれば、この訴は申立外児島税務署長に対する訴であり、その取消を求めている処分も前記の更正処分や納税告知であつて本件申立によつて執行停止を求めている差押等の滞納処分自体ではない。しかし前記各資料に疎明の全趣旨を総合すれば、本件滞納処分は、申立人において前記の更正処分や納税告知を無視し、所定の国税を納付しなかつたために行われたものであり、両処分は先行処分と続行処分の関係にあることが認められるから、続行処分たる滞納処分の執行停止を求め得ることは行政訴訟法第二五条第二項に照らし明らかであり、次に、前記の更正決定や納税告知が取消されれば滞納処分を行つた者が誰であれこの処分も運命を共にするわけであり、同法第二五条第二項も続行手続等の執行停止を認めるにつき取消訴訟の相手方と執行停止の申立の相手方とが異なる場合をその規定の適用から除外する旨定めていないのであるから、続行処分の執行停止の場合には相手方が異なるの故をもつてこれを認めないとするいわれもない。仮に右の場合執行停止を認めないとすれば、申立人は被申立人を相手取り新たに滞納処分の取消を求める訴を起してからでなければその執行停止を求め得ないことになるが、この訴訟中において更正処分等の取消事由である課税所得の認定の誤りを理由として述べてもそれは理由自体失当であり、したがつてかかる理由にもとずく本案を前提として滞納処分の執行停止を求めることはそれ自体本案について理由がないとみえ許されない場合と考えざるをえないこととなり、これを避けるため、申立人において申立外税務署長を相手取り前記の更正処分ないし納税告知の効力自体の執行停止を求めたらよいではないかとも考えられるが、単に当該滞納処分のみを停止すれば申立人の損害を免れ得る場合に、更正処分や納税告知の効力自体までの停止を求めなければ救われないとすることは無益な執行停止を求めることになり、同法第二五条第二項但書の趣旨にもそわないこととなるから、妥当な方法とは考えられない。従つて前記の結論が正当である。

二、次に申立人が本件滞納処分ないしその執行によつて回復困難な損害を受けるか否かについて勘案するに、同法第二五条第二項にいわゆる回復困難な損害とは、社会通念上手続の続行等の不停止によつて維持される行政目的の達成とその停止によつて申立人の免れる損害とを比較衝量して前者を犠牲にしてもなお後者を救済しなければならないと考えられる程度の損害を指称すると解すべきところ、〈疎明資料〉に疎明の全趣旨を総合すれば、別紙目録(一)記載の土地に対する差押処分は、本件申立の後である昭和四三年三月四日、岡山市岡字大道下一九五番地の八宅地七七坪四合九勺に対するそれを除き、すべて解除されており、残された右宅地は、不動産業を営む申立人の営業用の土地で第三者に借地権が設定されておるなどの事情があつて、申立人に対し、その差押えにより不相当な負担をかけたり、あるいはその公売により特段の損害を与えたりすることは考えられず、また同目録(二)(三)記載の賃料債権ないし供託金の還付請求権に対する滞納処分は事後的に金銭賠償が容易であり、さらに右宅地および同目録(二)記載の賃料債権の滞納処分によつて、申立人に対し、同人が所有ないし管理する付近の宅地等の処分価額や賃貸借関係に特段の悪影響を及ぼすとの事情も疎明されていないので、結局以上の程度の損害では、滞納国税を徴収して国家の財源に当てることを猶予しなければならないほどのそれとは認めがたく、同法二五条第二項にいわゆる回復困難な損害には該当しないと考えられる。

三、してみれば申立人の本件執行停止はその余の判断をまつまでもなく理由がないことになるのでこれを却下することとして主文のとおり決定する。(裾分一立 笠井達也)(東条敬は病気につき署名捺印することができない)

別紙〈略〉

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